第十ニ夜: この世界のどこかに
“Happiness only real when shared.”
― Chris McCandless
この世界のどこかに、わたしは独りではないと感じさせてくれる存在に出会うこと——。このことは生きることが与えてくれるギフトだと思う。
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ちょっとした思いつきで、読書の記録をInstagramに投稿し始めたところ、こんなにも本を読む人、そして本が好きな人がいるのかと驚いた。わたしの周りでは本を読む人は少ないから。
でも、物理的な距離という障壁を越えて、遠く離れた誰かと本について無言のやりとりをすること。それはテクノロジーの恩恵のなかでも、ひときわ素晴らしいものだと今さらながら思い返している。
ある詩集のあとがきに、こんな文章がある。
“私はこれを、私の生涯を左右する文章だと思いました”
“いま私が生活を見つめる目は亀之助から授かったもののように思っているし、「泉ちゃんと猟坊へ」は、私に対して書いてくれたのだとしか思えないのだから”
能町みね子「明るい部屋にて」
ここに記された感情をわたしも経験したことがある。そのとき、自分の内側から湧き上がってきたものは「こういう風に感じていたのは、わたしだけではなかった」という感慨。少し大げさに言えば世界から祝福されたかのような感情だった。
別の形での感覚もある。例えば、わたしと同じ本を読んでいる人を見つけたとき。あるいは紡ぐ言葉のひとつひとつに、自分と近しい感受性を見つけたとき。
わたしは本を読むとき、著者と2人きりの世界に閉じこもっていた。けれど、そこにはわたし以外の読み手もまたいたのだった。
クリス・マッカンドレス(Chris McCandless: 1968– 1992)は次のように言った。
幸福は分かち合ってこそ、実現する。
同じ本が、異なる文脈で、それぞれの部屋の本棚に収まっていること。当たり前と言えば、当たり前のことだけれど、それはとても不思議で、そして素敵なことだと思う。
どこか遠くに、わたしと同じ本を読んでいる人がいる——。
そんなことを思うとき、わたしは生きていくことに対して、ほんの少しだけ背中を押されるような気持ちになる。
K

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