Vol.10 At the end of the day | 第十夜: 夜と雨と寒い日

おともなく、しずまりかえって、

さむく しめっている

ユリー・シュルヴィッツ「よあけ」

誰だったろうか——「本を読むのにふさわしい日は、夜と、雨の日と、寒い日だ」と、どこかで読んだ覚えがある。

確かにそうだと思う。

夜は静けさがページをめくる音に深みを与え、雨は窓の外で柔らかいBGMになる。寒い日は手の中の本がほのかに温かく感じられる。冬は、読書にもっともよく似合う季節なのかもしれない。そんな思いから、「冬」というキーワードで本を選んでみた。

最初に手に取ったのは、北条一浩 編『冬の本』(2012)。

84人が「冬」と「本」について綴ったエッセイ集で、寒さの中ににじむ温もり、静けさの奥に広がる言葉の多様さに圧倒される。冬には、何かを内に宿す力があるのだと気づかされる。

そして、私の中で「冬」を想起させる本たちの存在を思い出した。例えば次のような本だ。

  1. 星野道夫『旅をする木』(1995) 極北の暮らしを通して、静かに季節と向き合う哲学が染み込んでいる。
  2. アン・マイクルズ『冬の眠り』(2012) 喪失と記憶、雪に覆われた感情の層が、淡く深く描かれる。
  3. 池澤夏樹『スティル・ライフ』(1988) 時間が止まる冬の日の午後のような静謐さ。
  4. ハン・ジョンウォン『詩と散策』(2023) 言葉と歩く、冬の道。
  5. こうのあおい『ふゆ』(2004) 冬を絵と言葉で包み込む、やわらかな時間。
  6. 鈴木純『冬の植物観察日記』(2023) 眠っているようで、静かに生きている冬の自然。
  7. 中井菜央『雪の刻』(2022) 雪が刻む記憶の層をなぞるような写真集。
  8. レミー・シャーリップ『雪がふっている』(2013) 絵本によって描く雪の白と余白の豊かさ。
  9. スーザン・トムズ『静けさの中から ピアニストの四季』(2012) ピアニストの内面に響く音楽がエッセイに。

冬と聞いて思い浮かべる言葉もある。

“O Wind, If Winter comes, can Spring be far behind?”

Percy Shelley (1792- 1822)「Ode to the West Wind」

「冬来たりなば春遠からじ」

パーシー・シェリー『西風に寄せる歌』

寒さの中に希望の芽が潜んでいることを、シェリーのこの詩は思い出させてくれる。この詩にふさわしいのが、鈴木理策の写真集『冬と春』(2022)だ。

雪が消え、光が差し込み、季節がにじむように移ろっていくページたちは、見る者の記憶をやわらかく揺さぶる。

今年はどんな冬を迎え、そこからどんな春へと向かっていくのだろう。そんなことを思いながら、静かな夜にページをめくっている。





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