Vol.8 At the end of the day | 第八夜: 手触り

ここ数年のうちに、読むことと書くことの方法論が大きく変わった。

読書は電子書籍から紙の本へ、メモはNotionへの入力作業からモレスキンの手書きノートへと——どちらもアナログへの「回帰」だったけれど、それは単なる懐古ではなく、身体の感覚が求めた自然な流れだったのだと思う。どうやら私は、利便性や簡便さよりも、手触りのあるもののほうを好むらしい。仕事においては徹底的にアナログ作業を廃し、合目的的であることを常に意識してきた。その対極にある無為なプライベートのあり方。このトランジションにはきっかけがある。

手書きに戻ろう——そう思いながら、なかなか踏み出せずにいたとき、一冊の本が、私の背中をそっと押してくれた。イタリアのカリグラファー、フランチェスカ・ビアゼットン。彼女の著作『美しい痕跡』には、寄せては返す静かな波のように手書きを語る。その手応え、丁寧に時間を重ねることの豊かさ。それらは現代という、あまりにせわしない社会への、小さなやさしい抵抗。

一日の終わりに、思いを綴ること。それを「一生の営み」として育てていくために、少し背伸びをして、万年筆を一本買ったのだった。

いま、過去に読んだ本を遡りながら、Instagramにレビューを投稿している。過去のメモ書きを眺めることもある。それらを読み直したり、書き起こしたりしながら、思考を辿っている。この遠回りに思えるような作業を通して、かつて自分がその本をどう読んでいたのかを知る。つまり、わたしは本と、そして過去の自分に出会いなおしている。

Instgramに投稿する本は、自分を形作ったと思える本に限っている。だから該当しない本は投稿していない。わたしにとってこれは単なる読書記録ではないから。逆に言えばここに投稿する本は、ここにアップしていない多くの本たちに支えられている。まるで、ここに書いたことが、書かれなかった言葉に支えられているように。

Instagramのアカウントは「at the end of the day | 一日の終わりに」という架空書店を名乗っている。それは、私の憧れの投影でもある。もし、私が本屋さんを営むなら、きっとその棚は、好きな本だけで埋め尽くされるだろう。それをここで体現している。

過去を遡って書評を書くという作業は、一体いつ終わるのだろうか。少しうんざりしつつも、読んでいた頃の気配を思い出しながら、なんだかんだで楽しんでいる自分がいる。本はこれからも読み続けるだろうから、きっとこれはライフワークになるだろう——そんな直感がある。

気分転換に直近の読書記録も織り交ぜつつ、のんびりやっていこうと思う。





コメントを残す